QuSome®学術文献

Novel Liposomes
Brian C. Keller
Handbook of Cosmetic Science and Technology, 2nd Edition
Edited by A. O. Barel, M. Paye and H. I. Maibach

序 章

リポソームは、顕微鏡でしかみることのできない、ナノサイズの脂質の小胞体(球体のナノカプセル)です。リポソームは母乳にも含まれるもので、広く自然界に存在するものです。リポソームにはすでに確認されている様々な特徴があり、皮膚科学の分野においても、有効なツールとして活用されています。1988年にJanssen-CilagがPeveryl Lipogelをラウンチした時、リポソームの技術が局部製剤に使われ、初めてスイスで商品化されました。

さらに10年後にリポソーム医薬品製剤 ELA-Maxが、Ferndale Laboratories, Incによって開発・商業化され、USで初めて発表されました。他社の製薬会社でも、リポソームカプセル化を皮膚の機能的、また局所的な治療効果をあげる目的で利用しました。

Table 1では、リポソーム技術を使った商品化で成功した皮膚科学製品を表示しています。

Product Name Drug Use
Peveryl Lipogel Econazole Mycotic fungal infections
Hametum Crème Hamamelis Inflammation
Heparplus EmGel Heparin Anticoagulation
L.M.X. Lidocaine Dermal anesthesia
Miltrex Miltefosine Breast cancer tumors with cutaneous metastases

<Table1>

1987年にクリスチャンディオールのコスメ Capture®の発表以来、リポソームにはいくつかの主要な働きの部分と、それ以外の解明されていない部分があります。リポソームを利用するために障害となっているのは、コストやフォーミュレーションの難しさ、製造規模の問題、安定性、そして一般的にリポソームの価値が誤解されていることなど、事実とそうでない両面があります。ただ、ここ数年でたくさんのスキンケア製品が、時間をかけた実用テストを経て製品化されています。

前の章で説明した従来のリポソームは精製されたリン脂質で、ほとんどがDPPC単体かDPPCにコレステロールかもしくは他のステロールの混合で作られています。この両親媒性をもつ脂質の働きは、極性溶剤(通常は水)の中で二重層膜のシートにリポソームを形成する準備をします。その結果できるコロイド集合体は、外側が親水性(水に溶けやすい)のヘッド、内部が疎水性(水に溶けにくい)のテールで、外からのエネルギーが加えられるだけで、二重層のカプセルができます。<Figure 1>

ちょうど物理的にこの本の1ページを折りたたんで、チューブに入れ込むのに、あなたの手と指を使うエネルギーと同等のエネルギーがリン脂質の二重層膜のカプセルを作るのに必要です。このカプセルは、自然に形成されていると思われがちですが、そうではありません。また自己形成化と自然カプセル化の違いははっきりしていません。リン脂質の二重層膜は、外からのエネルギーが加わったときだけ、自己閉鎖によるリポソームを形成します。この外部からの主なエネルギー源となるのは、超音波処理、高速攪拌、均質高圧処理、および高速切削体液処理などで、カプセル化の際にエネルギーとなります。

DPPC=dipalmitoylphosphatidylcholine (ジパルミトールフォスファチジルコリン)

QuSome® Figure1

<Figure1>

従来のリポソームの重要な派生物として、非イオン性界面活性剤リポソームと非リン脂質カプセルがあります。どちらも一般には合成界面活性剤小胞(カプセル)と呼ばれています。この小胞(カプセル)は非イオン性の極ヘッドに単鎖もしくは二重鎖の合成界面活性剤を構成しています。これらは親油性のテールが膜特性を制御する構造の二重層膜の小胞(カプセル)を形成します。

1980年初期の特許文献によると、この種の技術を使ったフランス、日本の発明品がすでにあったことがわかります。またその10年後には、化粧品にその技術が応用されました。Niosomes(ニオソーム)という技術は1980年代後半に、Lancôme and other L’Oreal ブランドに導入され、さらに他社が続きました。

美容活性成分を含んだ“コスメシューティカル”および“コスメディクス”と呼ばれる薬用化粧品が、そのフォーミュレーションに重点を置いて、感覚器官のテストや治療法に結びつけた製品へと進化し、話題となりました。リン脂質を使った満足のいくすばらしい完成品を作るためには、大規模な処理能力とフォーミュレーションの高い技術が必要です。そうすることで製品となるリポソームの安定性能とカプセル化した成分をよい状態で維持できることは周知の事実です。

コロイド集合体

QuSome®データ

<Figure2>

脂質の基本的な特徴は、幾何学的な形状であることです。この形而上の構成は脂質Pのパッキングパラメーター(分子の形状)によって決定されます。パッキングパラメーター(分子の形状)は与えられる脂質の量に関連していて、極ヘッドの大きさや炭化水素鎖の脂質の長さによって決定されます。

実験によると、パッキングパラメーターPを決定することは、両親媒性脂質の骨材形状を決める有効な決め手となります。

Pの定義(同) P = v / al

v:分子の容積  a:極性ヘッド領域  l:炭化水素鎖の長さ

単一鎖脂質類、洗剤類、および界面活性剤類に関しては、極性ヘッドが非極性テールより大きな構造で、Pが0.75以下であればミセルを形成します。脂質Pの値が1までの場合リポソームの形成に一番適した状態です。Pが1以上になると、極性ヘッドは、非極性鎖と逆ミセルに比例して小さくなります。化粧品のフォーミュレーションに使用されるいくつかの興味深い脂質のパッキングパラメータや、形状、構成については<Figure2>で表示しています。

※ミセル(micelle)::親油性(油になじみやすい)の部分と、親水性(水になじみやすい)部分を持つ分子が水の中で油になじみやすい部分を内側にして球状に集まったもの。例えばリン脂質二重膜もミセルです。

A Model of Geometric Packing of various amphiphilic lipids into colloidal aggregates.
(Adapted from D.D. Lasic, Liposomes; From Physics to Applications, Elsevier, 1993 pp 51)
コロイド集合体に形成されるさまざまな両親媒性脂質の幾何学的構築モデル

二重膜層を形成するために、脂質ヘッドグループと炭化水素鎖は、小胞体(カプセル)の編成によって生じる半径どおりに自身を組み立てます。もし炭化水素鎖がヘッドよりも小さいと、生じる半径が大きくなり、ミセルが形成されます。逆に炭化水素鎖がヘッドよりも大きい場合は、生じる半径は逆の信号(合図)となって、逆ミセルが形成されます。

新しい、自然発生的でかつ熱学的に安定したリポソーム(STS)

ほぼすべてのリポソームは、熱学的に安定していないと知られています。その代わり、そのフォーメーションの際に使われるエネルギーによって、より強いエネルギーを閉じ込めることができます。繰り返しますが、エネルギーは熱、超音波処理成形、均質化処理として使用されます。あらゆる高エネルギーがその放出されたエネルギーを弱めようとするために、リポソームのフォーミュレーションには、形成する際の材料の凝集、融合、沈降、漏出などの問題を起こします。しかしながら、よく調合されたリポソームとその完成品は長期間安定した状態を保ち、適切な保管がなされれば、科学的に劣化することはありません。熱学的に安定したリポソームの状態を保つことで、数々の問題を避けることができ、理想的です。

従来のリポソームの成功と用途の拡大にもかかわらず、いくつかの問題の解決のために、リポソームを形成する新たなタイプの脂質を早急に開発する必要がありました。

優れた新たな脂質の一般構造

<Figure3>

この章では、熱学的に安定したリポソームを容易に形成できる特性をもち、さらに費用対効果に優れた新たな脂質のグループについて述べます。この脂質の一般構造は<Figure3>を参照下さい。

この構造はリン脂質と類似していますが、根本的な違いは熱学的に安定したリポソーム形成に優れている点です。必須要素の親水性ヘッドは、8-45サブユニットの広いレンジもしくは300~5000 Daltons (n=8-45)を持つPEGチェーンです。PEG化された脂質は、リン酸頭基を持つリン脂質リポソームから作られたいくつかのリポソーム組成(例:Stealth®)の膜に結合しました。グリセリン、3炭素鎖を主要素に、2つの炭化水素R1とR2は長さ(C=8-25)によりどちらかに変わります。

※PEG = ポリエチレングリコール:非イオン性界面活性剤
※Dalton = ダルトン:分子や原子の質量の単位。1Dalton = 1/1000nm

リポソームを形成するために脂質と水溶液を混ぜるとき、その脂質分子を使うことによって、ほとんどエネルギーは必要としません。脂質分子が水に混じって散らばり、自然に低エネルギーの状態に落ち着くと、小胞(カプセル)を形成します。結果として熱学的に安定した多重層脂質小胞(カプセル)が生まれます。

<Figure4>では脂質が水と混ざるときの融点で小胞(カプセル)を形成する状態を表示しています。

QuSome®カプセルを形成する状態

<Figure4>

化粧品のフォーミュレーションでこれらの脂質を使う場合、簡単に、また労力をあまりかけることなく大量にも、少量でも準備することが可能です。これらの脂質の融点は低く、75oC-80oCに加熱してもその特性を失うことはなく、様々な皮膚科学のフォーミュレーションで、素晴らしい能力を発揮しています。

フォーミュレーションのために予め脂質を溶かす有機溶媒は必要ありません、脂質カプセルの形成に必要なのは、処理装置で単純に混ぜるだけのプロセスです。

Table2は、コスメティックフォーミュレーションで使われた脂質の使用状態の例です。

Lipid Melting Point Spontaneous Liposomes at Melting temperature
PEG-12 Glyceryl dioleate Fluid @ 25oC Yes
PEG-12 Glyceryl dimyristate Fluid @25oC Yes
PEG-23 Glyceryl palmitate 31.2oC Yes
PEG-12 Glyceryl disterate 40.0oC Yes
PEG-23 Glyceryl disterate 39.8oC Yes

Table2

これらの脂質を使って形成されたリポソームは、大きさが750~1500 Åで、二重膜の膜厚はおおよそ40 Åになります。顕微鏡で見る限り、そのサイズは均一に見えますが、完全な球形とまれに楕円形や不ぞろいな形になることがあります。おそらく使用される脂質の純度や均質性のせいではないかと考えられます。

※ Å = オングストローム:分子や原子サイズでの非常に小さな長さを表す単位。 1Å = 10-10m = 0.1nm

QuSome®カプセルを形成する状態

<Figure5>

化粧品のラボにおいて、リポソームのフォーミュレーションでその存在を確認するには、偏光式光学顕微鏡で確認するのが理想的な方法です。<Figure5>は、PEG-12GDOとコレステロールから形成されたいくつかの多重膜層リポソームの写真です。これらは、完璧な白い球形で、中心に画定十字があります。これは、非常に活発で40度と50度の温度下での90日間テストや、凍結と解凍サイクルの間でも安定した状態でした。化粧品のフォーミュレーションの際にこれらのリポソームは従来のリポソームと比べて、より高いイオン性界面活性剤レベルと、より広いpH範囲2.5~9.18での耐性があります。さらにPEG-12 GDOとPEG-12 GDMは溶解剤としての優れた機能を果たし、コレステロールを含む溶けにくい成分に働きかけます。

その熱力学的に安定した状況のために、最低エネルギーの状態を得るために、リポソームが溶解したり、結合したりまた不安定になるようなことはありません。

化粧品の調合の際に、非リン脂質を使うことで、微生物の栄養として不可欠であるリン酸塩が欠乏し、微生物の成長に影響されない製品を作ることが可能になりました。このタイプの頭基の欠如は、生臭いにおいを引き起こすリン脂質の極ヘッドでアミノ基の酸化を防ぎ、総合的な安定性をもたらします。

リン脂質の毒性は徹底的に見直されて、本質的に非毒性になっています。<Table2>に表示されている、脂質の毒性に関する大規模なテストが最近行われ、これらは、非模倣で非毒性であることが結論づけられました。そしてこれらの脂質は、多くのスキンケア製品への使用を認められているものです。

実用性

いたるところで従来のリポソームを取り入れた化粧品を見かけるようになりました。ただ、時にリポソームの実用的な意義が二の次になっていることがあります。リポソームの存在が、ラベルにうたわれることであったり、マーケティングの宣伝目的での使用が優先される有様です。化粧品という見かけの良い乗り物に乗せられて、顕微鏡でしか見れないサイズのカプセルの構成が、化粧品のラベルの制限以上の消費効果をもたらしている状況に陥っています。重要な治療に関わるリポソームの成分含有量は確実に効果を達成するように、表示するべきものです。

カプセル封入効率

皮膚科学の商品に使われるリポソームの利点;成分の可溶化が改善、化粧品の成分を安定化させるためのマイクロカプセル化、皮膚に成分がとどまる時間を長くする、効果を持続するための成分放出の持続性、バリア機能と保湿を改善するために、脂質成分を皮膚に供給する脂質分子事態の有益効果をあげる。

化粧品のフォーミュレーションの構築を考慮すると、液体、固体、油、水、結晶、セルロース誘導体、およびペーストと混ぜ合わせる技術が必要です。この章の最初で述べたように、一般的な製品の治療的価値が焦点になってきていますが、製品の手触り、感触、臭いについて軽視するのは誤りです。いずれにしても、それぞれの成分の構成について、多くの時間が検討に費やされています。

美容活性成分の濃度は低く、一般的な使用のレベルは1-5%の範囲です。さらに、ほとんどのフォーミュラが、皮膚に効果をもたらす1つ以上の成分を含んでいます。カプセル化したい活性化成分のリポソームカプセル化を実現するために、材料の物理化学の特性を知っている必要があります。親油成分がカプセルのより上側にあり、アシル基(脂肪酸)に入り込むのに対して、親水成分はカプセルの下の層にあります。

QuSome®カプセルを形成する状態

<Figure6>

脂質のタイプ(カプセル化される成分、チャージした脂質および活性成分)は、有効成分のカプセル化の効率アップに貢献します。実験によると、フォーミュレーションを始める、最大限にカプセル化する手軽な方法は、脂質と成分の割合を2:1の濃度にすることです。親水性成分の場合は、より高い濃度の割合が必要になるかもしれません。

脂質の等しいモル濃度における、2つのリポソームフォーミュレーションの比較研究で、STSリポソームを形成するPEG脂質が。従来のリポソームよりも大きいカプセル効率を示しました。<Figure6>

※アシル鎖 = 脂質分子の親油基テール部分
※モル濃度 = 溶液の濃度を表示する方法のひとつ。 単位体積の溶液中の溶質の物質量として表される。

皮膚からの浸透

化粧品ですら送達技術を使用する、主な理由として、高い皮膚浸透能力が上げられます。有効成分を角層の下の層に送ることは、親水性、バリア機能の改善、アンチエイジングのための活性酸素の除去、栄養素やビタミン(ビタミンAおよび類する物質)による表皮と真皮の強化、トコフェロールとビタミンC、他の効果の知られた皮膚活性成分の送達は、多くの美容目的のために望ましいことです。

QuSome®カプセルを形成する状態

<Figure7>

化粧品と医薬品の、リポソームの皮膚浸透のためのカプセル化の技術は、1990年代半ばまでに素晴らしく進歩しました。 皮膚浸透と活性成分のカプセル化の能力については多くの研究で議論されました。これが、リポソームカプセル化の非常に重要な恩恵となりました。リポソームの使用で、活性成分の皮膚浸透を加速するだけではなく、加速して、さらに“治療効果”を高めることがわかりました。

STSリポソームによるカプセル化カフェインを使用した皮膚浸透の研究は、死亡人体の皮膚を利用して行われました。

そして、連続して細胞に流れて拡散する状況は、興味深い結果をもたらしました。PEG-12GDSから作られたリポソームにカプセル化されたカフェインは、カプセル化していない、水と油の乳化剤に含めた同じ状態のカフェインC-14と比較しました。8時間後、皮膚にさらにカフェインがレセプター溶液に浸透し、拡散しました。<Figure7>

化粧品へのリポソーム技術の応用

従来のリポソームは、治療法や薬品分野での成果が今後も期待されています。シミの改善や美白製品や白斑治療などでも、この活用が推薦されています。リポソームとレチノールで安定させてから、成分をカプセル化する方法は、これまで化粧品の有効成分の使用量に限度があった問題を解決しました。さらに薬用化粧品でのリポソームの活用として、発毛を刺激する分子と潜在性DNAを、毛穴に送ることもできます。STSリポソームの使いやすさ、費用、安定性と幅広く有効活用できる点を生かして、さらに他の分野で浸透テクノロジーを活用できる可能性が生まれています。

基礎的研究において、自然発生的で安定した(STS)リポソームは、化粧品科学で実用可能な浸透テクノロジーであることが確認できました。この脂質は主にPEG-12 GDSとPEG-12 GDOで、ニキビ、乾燥肌、炎症、美白、および加齢のシワの治療目的の製品で、この技術が使われています。研究所のテストにおいて、成分の可溶化、成分の安定性、およびカプセル化について、STSリポソームが現在利用できる送達物質より優れていることを立証しました。STSリポソームはペプチドとその増殖因子、また、加水分解小麦タンパク、グリコール酸、レチノール、補因子および補酵素の送達のためのオプションにも有効です。

結 論

1980年代後半から、従来のリン脂質と特許により使用制限のあった、局部的フォーミュレーションの小胞(カプセル)送達システムが、非リン脂質が登場したことにより、化粧品への使用ができるようになりました。過去20年にリポソーム製品の多くの成功例が多く聞かれるようになりました。引き続き、リポソームがさらに活用され、その真価を理解されることで、化粧品フォーミュレーションのオペレーティングシステムに注目が集まります。

理想的な化粧品のフォーミュレーションは、活性成分が適量の濃度で含まれ、見た目がよいクリーム、ジェル、ローションなどや、またセラムに含まれるもので、香りがよく、使いやすいものです。製造のために、研究所でのフォーミュレーションや、大規模な製造工程がいらない、また高額な装置が必要でないものであるべきです。新しい送達システムは、この定義を実施するのに大きく貢献しました。現在、リポソームを活用するための障害はなくなり、皮膚医学フォーミュレーションの重要なツールになりました。

 
 
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